様々な考察が飛び交う「パワー・オブ・ザ・ドッグ」の物語に込められた奥深さ!

様々な考察が飛び交う「パワー・オブ・ザ・ドッグ」の物語に込められた奥深さ!

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第94回アカデミー賞(2022年)で、メインの作品賞など複数ノミネートを達成した作品でありながら、「一度観ただけでは伏線まで気づかないのでは?」という、複雑さを持つ本作品。

タイトルの表す「パワー・オブ・ザ・ドッグ」の意味と、「誰の目線で、誰の話なのか?」というポイントに注目することで、登場人物たちの隠された気持ちが見えてきます。

こちらの記事では、その奥深さと静かなストーリーに込められた想いを深堀しながらご紹介します。

「誰に注目するか」で物語への見方が変わる! 巧妙なストーリーに注目!

「誰に注目するか」で物語への見方が変わる! 巧妙なストーリーに注目!

舞台は1920年代半ばのモンタナ州。牧場を営む「フィル」は温和で優しい弟の「ジョージ」と、平穏な暮らしをしていました。
しかし、フィルには粗野で高圧的な態度をとる一面も。ジョージが子連れの未亡人「ローズ」と結婚したことで、これまで仲の良かった兄弟仲に歪みが生じます。
フィルはローズの連れ子である「ピーター」が、男らしくないという理由で差別的な態度で強く当たります。
そんな二人ですが、同じ時を共に過ごすにつれて次第に心打ち解けてゆくのでした。

でも、これはそんな単純なお話ではなかったのです。
誰が、誰に、何を思って行動するのか? この物語の主人公は誰なのか?
フィル、ジョージ、ピーター、それぞれが胸に抱える想いとは。静かに、そして数々の伏線を見事に回収した衝撃のラストをご覧ください。

「power of the dog(パワー・オブ・ザ・ドッグ)」は聖書からの引用?その意味とは?

「power of the dog(パワー・オブ・ザ・ドッグ)」は聖書からの引用?その意味とは?

旧約聖書の詩篇第22編に由来しているといわれる「power of the dog」の一文。
意訳して考えると、この映画における「犬」は敵対するものであり、排除すべきものであるポジションを指しているのではないでしょうか。
「わたし」に降りかかった受難とは、一人だけの主観からではわからない側面があります。

それぞれが「わたし」になったとき、自分にとって敵対するものは誰なのか?
邪魔をするものは誰なのか? 誰を排除しなければならないのか?
相容れない環境下において、このタイトルだけで、その関係性が表現されているのはさすが……! と、頷けます。

ただの愛憎劇ではない!? 誰の視点からこの物語を見るのかで印象がガラリと変わる!

ただの愛憎劇ではない!? 誰の視点からこの物語を見るのかで印象がガラリと変わる!

フィル、ジョージ、ピーター、ローズ、それぞれの「犬の力」とは?
フィルの美学や信念は「男は男らしくあること」。フィルが崇拝する「ブロンコ」は恩人であり、敬愛以上の愛を持っていました。

失った気持ちと、自分の世界に踏み込んでくる女性、ピーターに感じる苛立ちなど、自分の生活から排除しようとします。
フィルから見たとき、邪魔者はローズやピーター。兄弟のジョージすら、ローズに奪われたように感じたかもしれません。

一方ローズは、悪意をぶつけてくる荒々しいフィルのせいで、心を病んでしまう程。

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ジョージとの安定した生活は、フィルが居る限り叶うことはありません。
優しいジョージは板挟みでありながらも、この環境を良く思っていませんでした。
ローズから見た邪魔者はフィルであり、この二人は相いれない間柄であることは間違いありません。そして最後にピーター。

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彼にとって最愛の母であるローズの幸せを願うには、フィルの存在が邪魔でしかありません。
母親のことをローズと名前で呼ぶピーターもまた、複雑な愛情を持ち合わせているのかもしれません。
誰に感情移入するかで、この物語の感想が変わってくるでしょう。

男のエゴが含まれているといわれている「犬の力」という言葉には、奥深いものがありますね。

広大な景色と巧みなカメラワーク

広大な景色と巧みなカメラワーク

青い空、カラっと乾燥した空気を感じる荒野。自然が豊かなようでいて、寂しさも感じる大自然。そんな清々しい景色も見どころです。

窓の内側から、窓の外側にいる人物達を眺める演出は、まるで内と外で心の心境や環境を分けているよう。
お互いが同じ場所にいることはほとんどなく、同じ場所に居るときには、揉めたり対立したり。
そうした価値観の差が、建物や家の内と外で表現されています。
また、登場人物たちの上下関係がそのまま構図となって表現されているシーンも!

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立場が上だと思っているフィルが、建物の2階からローズやジョージを見下ろしたりするのも、フィルがその場や環境において強さを主張しているから。
同じ場所に佇むとき、心の距離が近づいていることを表現しているかのように、その距離感や構図が抜群の演出となっています。

最後に、炭疽菌にかかったフィルが、2階から降りてジョージとローズと同じ位置になることで、もうそこには力関係がなくなったことを表現しています。
最も弱い立ち位置と思われていたピーターが、最後に2階から見下ろすシーンも、力関係の逆転を表現しているのではないでしょうか?
そうした構図の切り替えが巧みに使用されているので、注意深く見ていると面白いですよ。

まとめ

「男は男らしく」という、社会やジェンダー性のメッセージが含まれているような描写からも、様々な心の在り方があることを投げかけているように感じます。
何もかも歪んでいるように感じる、複雑な人間模様を紐解いていく、味わい深い作品です。
フィルが崇拝するブロンコに対し、敬愛以上の愛がある様子などもちりばめられています。
モノローグやセリフとして表現されない、行動や動作での演出はさすがです。
一度見ただけでは見逃してしまうような、細かな伏線もあるので、何度見ても新しい発見がありますよ!

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